722


72時間経過。


その日夕飯を食べ終わると、いないとわかっているアスマ宅へ向かった。
いつもは喧嘩しても気がつけば元に戻っているのに。後悔だらけだ。このまま永遠にあえなくなったらと思うと
心が潰されそうだった。

早く顔を見て、素直に謝ろう。




「…アスマー」




ドアに手を伸ばすと。不用心にも開いた。



「物騒だな…ったく」





一歩一歩足を進める。人の気配はあるようだ。






「…アスマ…」





真っ暗な部屋で大きな背中を丸めて何をしているのだろうか。






「お。来たな。いーもん見せてやるよ」





始めからシカマルがくることをわかっていたような口振りにホッとした。



1%の 確率でも、拒絶されることを考えていたから。





「おら。座れよ」





床にあぐらをかくアスマと向かうようにベッドに腰を掛けた。シカマルも暗闇に目が慣れてきたおかげで、アスマの動きをとらえた。
何やら印を組出したようだ。




「…何…」



「静かにしてろって」





初めて見る印を、ただじっと息を飲んで見守った。





(長…)





戦闘中なんて見てる暇ないし、下忍時代もまともにアスマが印を組むところを見たことはなかった。
常に煙草を挟む指は正確に流麗に印を組んでいる。


「…っし」




最後の印が終わり、パンと手を叩いた。 




「…わ……すげぇ……」





「だろ?」




それはプラネタリウムを設置したかのように部屋に星空を作り出していた。




「ま…子供騙しみたいなもんだけどよ…お前はこーゆーでっかいもんが好きかと思ってよ…」







アスマはアスマで喧嘩したことを気にしていた。任務中も気にかけていたが、これをおも
いついたらしい。






「多少覚えるのに骨は折ったけどな」





「長かったもんな…アンタすげぇよ」




シカマルはストンとアスマの隣りに座った。




「72、印組んだ」





「マジで?!」





たった1人の、自分の為に馬鹿じゃないか。この男は。





「ま、たまにはロマンチックなのもいいだろ?」






術をかけたままシカマルの肩を抱き寄せ、尚且つ煙草まで吸おうとしている。





「アスマー…」





「っー…上、見とけ。」





何かを口にしようとしたシカマルを制する。
照れくさそうに上を指さすアスマを可愛いなんて思う自分の脳は相当ヤバいな、とシカマルは笑った。




「なぁ、俺にも教えて」




「今から?将棋のルール覚えるのとわけ違うぞ…それに」


「なんだよ」



「お前もできちまったら俺がかっこつかねーだろうが」




さっきよりもシカマルは大きな声で笑った。なんて子供みたいなことを言うんだろう。







「っ…あー笑いすぎて腹いてー」






あんなにムカついていたことなどとうに消えてしまっていた。





「最長だなー」



「あ?」




「72時間も72印組んだのも」




「…もしかして時間に併せたわけ?」



「おうよ」



「俺が73時間後に来たらどーするつもりだったんだよ」



「そしたらやらなかったなーコレ」



「……」




いつからこんなロマンチストになったのか。悪いものでも食べたのかと怪訝そうなアスマの顔を覗きながら、
こんな幻術にバリバリ喜んでる自分に吹き出した。





「何笑ってんだよ」




「…ありがとな」




「ん」




空の機嫌が悪くて曇った夜でも、アスマといれば星が見れるな、とロマンチックな考えに辿り着いた。






「お前よー」




「ん?」





「口悪いのはあきらめてるからいいけどよ…」




「はっきり言えよ」





デカい図体を丸めて何を口もごってる?






「あんまり言うなよ。嫌いとか…」


へこむからよー、と消え入りそうな声。





「ロマンチストの次はヘタレかよ」


「うるせー」





強くてロマンチストでヘタレなアスマがどうしようもなく好きだ。




だから精々【嫌い】だけは言わないようにしてやるか。













「ヒゲ嫌い、煙草嫌い、加齢臭嫌い」



「シカマル…(涙)」





終。


<あとがき> こういうくだらない役立たない術があってもいいんじゃないすかね。 シカマルを喜ばせるために骨をおってればいいよ、アスマさんはw
戻る