9月1日は日曜日




簾の向こうでは夏の到来を嫌でも意識させるようにセミが鳴いている。
簾の内側では、熊が泣きそうになっている。





「毎回毎回よー、学習能力ねぇなぁ」

「…悪い…」





「夏休みの最終日まで宿題溜め込むガキと同じじゃねーかよ」

これはシカマルの言葉。



「……」

大きな体が一回りは小さく見える程しょんぼりしているのはアスマ。
まさに母親に怒られる子供のように、言い返すことができない。
シカマルの家の一室に大きなテーブルをだし、どっさりと両脇に紙の山を積み上げている。
これのせいで室内の温度が1,2度は上がっているのではないかと思うほどに大量の書類。
せっせと筆を動かしては、すぐに「う〜ん」と手が止まる。
その都度先ほどのようなチクチクとシカマルの攻撃をくらう。




「信じらんねー、こんだけ全部明日が期限なんて」




アスマがこれだけ言われても反論できずにいるのはワケがあった。




「俺たち連れて山やら海やら遊びに行ってる場合じゃないだろ」


シカマルは手を止めることなく言い続ける。


「上忍が部下に手伝ってもらうなんてダサすぎる」


「…そこまで言わなくても…」



シカマルの言うことが正しいからだ。
頼んでもいないのに山やら海やら川やら、
休みの度にいのやチョウジらを遊びに誘ったのはこの上忍。
さらに夜になれば"つきあい"の飲み会に明け暮れたのもこの上忍。
アスマがデスクワークが苦手なことはわかっていても、
遊びまわって毎回最後に手伝わされるのはシカマルなのだ。面倒くさいことこのうえない。


「…羊かんに釣られる俺ってお人好し」
「またやってんのかシカマル」


明らかに笑いを堪えているシカクがお茶を運んできた。
旗からみたこの2人は面白いのだ。どっちが生徒で教師かわからない。



「…すんません」



シカマルの家にて行なっているのもサボらないようにするためだ。
アスマの自宅ならだらけることは容易に想像つくし、
ここならシカクもいるのだから簡単には怠けないだろうとシカマルは考えた。
それなのにうだうだしているアスマにシカマルの怒りはおさまらない。



「そう怒るなよ。こいつだってお前らの相手しながら任務やってんだからよ」

「だからって書類溜め込んでいいことにはならねーだろよ!」

「確かにな」



もっともらしいことを怒鳴る息子にシカクは母親に似て来たかな?などと呑気に考えた。
アスマの横に座り、耳打ちをする。



「同情するぜ、アスマ」


恐妻家に哀れまれて些か複雑な気分だった…。


「お前がくるまで散々母ちゃんに怒鳴られてたからなーシカマルの奴。やつあたりしてっかもな」

「気にしてないです…てか俺が悪いし。」

「羊かんくらいで引き受けるアイツもまだまだお子様だな」


くくっと笑ってシカクはその場を後にした。










「お…終わった」



アスマは体を畳に預け、安堵の溜め息を吐いた。 とっくに日が暮れていた。
シカマルは縁側で星空を見上げながらしゃくしゃくとスイカを食べている。



「シカマル大先生ー終わりました」



しゃくしゃく… 


「だから機嫌なおして?」

「その書類…持って帰れよ」




未だに不機嫌を引き摺った声に、アスマは伸ばしかけた手をひっこめた。



「シカマル〜…」




怒りの沸点はとっくにとおりすぎていた。自分の名を呼ぶ情けない声に笑いそうになるのを堪えるためスイカにかじりつく。
アスマが手土産にと持ってきたスイカはよく冷えていた。
このまま振り返ってタネを飛ばしてやろうかしばし悩む。


「…謝ってるだろー?」

「…っぷ…」





まだまだヘコミ続行中のアスマは真剣だ。思わずシカマルはタネを吐きだしてしまった。 







楽しい夏だった。暑くてだるくて溶けるんじゃないかというくらい寝てばかりの例年と違い、
日に焼けるほどあちこちに出かけた。
全てはアスマに連れ出されたせいだ。10班でメンバーで行くときもあれば、二人の時もあった。
会わない日を数える方が早いくらい毎日遊んだ。
先生、なんて忘れるくらい子供のように一緒に楽しむアスマに
「書類の山は?」
なんて無粋な言葉をかけれるわけもなかった。
馬鹿みたいに笑う男に、言えるわけもなかった。


だからほんの少しだけ、手伝ってやるつもりだった。





「あんたのせいで面倒な報告書の書き方覚えちまったよ」


「…勉強になったろう?」


「反省しろよな」


「してるさ」


既に元のにやけたアスマの顔に戻っていた。煙草を加え、シカマルの隣りに座る。




「焼けたなお前」


「そう?」

大きな手で鼻を摘まれる。口に残っていたタネを飛ばしてやった。 


「きたねーな」


「触るな」






嬉しい夏だった。
いつも頼ってばかりのアスマに些細なことでも頼られたのだから。
無論口にはしない。
きっとアスマはそれをわかっていて溜め込むのだ。
きっと来年も。再来年も溜め込むのだ。






「毎年、こうならいいな」


「何がだよ」


「旨いスイカが食いたい」





まとわりつくような蒸し暑ささえも好きになったある夏の日のできごと。







終。




<あとがき> かっこいい大人のアスマも好きだけど、ヘタレでダメ人間なアスマも大好物なんですv 子供に大人気だといいなぁ。 戻る