囚われた心 奪われた心 拐われた心 失った心 凍える心は戻らない温もりを求め続ける 体の火照りを止めることができなかった愛に逸れた天使
少年は翼を失った飛べない天使のように 愛した人のベッドの上に体を預け、四角い枠から見える世界を睨む。 空虚な心とは裏腹に清々しい青さを魅せる空を恨むことはできなかった 其処には何よりも愛する人がいるのだから。 いとおしく笑顔を浮かべる。 少年は歌うことを忘れたカナリヤのように ただ同じ言葉を繰り返した 「ア…スマ…」 ぎゅうっと古くなった枕を胸に抱く。 テーブルの上にはお香のように灰皿に火のついたタバコが煙を吐き出していた。 愛しい匂いに包まれて、少年は体を捩らせた。 「アスマ…」 ただ一人の師。 「っ…ふ…っ…」 初めて戦う強さを教えてくれた強い師だった。 ただ一人の愛した人。 ただ一人愛してくれた人。 優しい指で触れてくれたように前立腺を撫でる。 「…ッア…ぁ…」 初めて愛することを教えてくれた人だった。 目尻から涙が零れる。 初めて抱き合う喜びを教えてくれた人だった。 がさつな性格からは想像もつかない程彼は丁寧に、 壊れものを扱うように少年を抱いた。 時に壊すようにも抱かれた。 頭に描くのは、いつも優しい笑顔。 「っ…ア… 言葉に成らない嬌声をあげながら、名前を呼び続けた。 初めて失う痛さを教えてくれた…。 「ア…スマ!」 脳裏に焼きつく笑顔を想い、熱い欲を吐き出した。 今日も空を見上げ叫ぶ。独り失き自分の部屋で自慰にふける教え子を笑っているだろうか。 少年は不幸だった。若くして最愛の人を失くしてしまった。 師もまた不幸だった。少年を独り残し先に逝ってしまい、 最愛の少年と、はなればなれになってしまった。 本当に不幸なことは そのどちらでもなく、 少年が他人を愛することを教わることができなかったこと。 少年は、出口のない迷路に入り込み、 愛に逸れた。 それでも彼は、これからもいとおしく空に笑いかけるだろう。 いつでも会える場所に彼はいる。 終 戻る