でんわ

いつもの休日in俺の家。 縁側で将棋をさしていたが、今日は3回ほどで打ち切られた。 「待った」 の度にアスマは将棋盤とにらめっこをするわけだから、首が痛くなったらしい。 悩みすぎ、わかりやすすぎ、弱すぎ。 もうちょっと戦法練ればいいのに。 こう思うのもいつものこと。 そんなわけで今俺達は静かに読書タイムを過ごしていた。 将棋盤は隅によせて、ごろりと寝そべる。 俺は親父から借りた本を、アスマは珍しく雑誌を読んでいた。 表紙には「世界の情勢〜」とか書いてある。 「めずらしーな。アンタがそういうの読むの。」 「まぁな。たまには新しい知識も仕入れとかねぇとな。」 俺達の前でも堂々と勉強が嫌いだ、文字が嫌いだと言っているダメ教師。 そのアスマから「知識を仕入れる」という言葉が聞けるとは。 今日は嵐にでもなりそうだ。 そんな思惑を知ってか知らずか、アスマが話しをふってきた。 「世の中にはいろんなもん開発するスゲー奴がいるんだなー。」 「んー?」 面白そうに指をさすページを俺も覗き込んだ。 四角い箱にダイヤルがついていて、紐で付属品が繋がれている代物。 見たことがない。 「何だ、コレ」 「でんわ、っていうそうだ。離れたところで会話できるらしいぜ」 俺は驚いた。その「でんわ」というモノにというより、こんな最新アイテムに とことん興味のなさそうなこの男が食いついていることに、だ。 「これ、あったら便利だよな。」 「だな。任務の通達とか・・・。」 「じゃなくてさ。」 コツン、と額を小突かれた。 「お前の声が毎日聞けるだろ?任務で離れててもさ。」 かぁ、と顔が染まる音が聞こえる。 恥ずかしい奴だ。まったく。 すこっしも照れずに言いのけるから、ある意味尊敬するぜ・・・。 そんなのなくても毎日会ってるし。 いらねーんじゃねぇの?・・・なんて思ってしまう俺も同類か。 「よ、よく読めよ。ここ。ほら」 説明書きが記載されていた。まだ開発されたばかりで試作段階で、その「でんわ」は 恐ろしく金がかかるらしい。 1ヶ月=チョウジの焼肉代くらい。 「んだよ・・金取るのかよ・・・。」 アスマの眉がハの字に曲がる。 世紀の大発明と謳われているアイテムに無料を期待していたのか・・・? とんだお気楽な考えだ。 「もっと普及される頃には安くなるんじゃねーの?」 「だといいがなー・・・。」 本気で使いたかったのか、アンタ。 しゅん、と俯く熊熊。ていうか落ち込みすぎ。 どんだけ期待してんだよ。 アンタの暗い顔は見てて気分よくないんだよ。 めんどくせーけど、フォローしてやるか。 「これさ、小型になって持ち運べたらもっと便利だよな。」 これは俺の本音だった。雑誌にのっているソレは大きすぎて家にあっても 外にあっても邪魔っぽい。煙草の箱くらいのサイズになればポケットにも入るし いつでも使えて便利だと思う。 もちろん、安い料金で。 「おお!!だよな、だよな!俺もそう思ってたんだよ!!!」 顔を上げたアスマは子供みたいに目を輝かせて笑っていた。 いろいろ頭で楽しい未来の想像をしているらしく、嬉しそうに独り言まで呟いている。 フォロー成功。 「あ。」 なんだよ。何思いついたんだよ・・ 「どうしたよ?」 「そんな便利なものができては困る!」 「はぁ?アンタ散々喜んで・・・。」 「だってよー、いつどこでシカマルが浮気してるかわかんねーじゃん。」 ・・・心配しなくてもしねーし。 「それに。やっぱ顔を見て話した方が楽しいもんな!」 また子供みたいに目輝かせてやんの。 不覚にもそんなアスマが可愛いとか思ってしまう俺ってやっぱり恥ずかしい奴だ。 「不便でけっこう!」 そこまで言い切るアスマに思わず噴出した。 やっぱ最新アイテムは似合わない。 アスマも俺も。 めんどくせーけど、古くて馴染んでるものが好きだからな。 終。
<あとがき> ここまでおつきあい頂きありがとうございます。 もしも、この時代に携帯電話が開発されたら二人はどうなるよ?! と突然思いまして。間違いなくメールは二人ともしない派でしょうねー。 そして簡単ケータイww 戻る