語り継ぐこと

あれから何年たったのだろうか。 あれからどれだけ去る者姿を見ただろうか。 自分はあの頃と何も変わらず、今日も木陰にねそべっている。 平和が訪れたこの里で、守るものもない今更生きている価値も見出だせない自分が 何故此処にいるのだろう。 大事なものは残酷なまでに奪われていくのに。 オビトも、先生も …アスマも。 何も残ってはいない。何も… 「先生?」 懐かしい声… 「カカシ先生ってばよ!」 「!?」 「またこんなとこで昼寝?」 「…ナルト?」 金色の髪にスカイブルーの瞳、独特の語尾… 夢かと思いまばたきを繰り返すが、どうもホンモノらしい。 「久しぶりだってばよ〜」 あんなに子供ぽかったナルトが暫くみないうちに随分大人ぽく、精悍な顔つきになったものだ。 …いやでも四代目の影がつきまとう。 そのナルトの後ろから、懐かしい匂いが漂った。逆光でよく見えない。 「この匂い…」 忘れるわけもない懐かしい香りだ。 「アスマの…」 いるわけもないと、わかってはいても名前を呟かずにはいられなかった。 「お久しぶりです」 礼儀正しく挨拶をしてきたのは… 「っ…」 一瞬、この世にいるはずもない亡き人をナルト同様、重ねてしまった。 いるはずもないのだから。 そう黄昏かけた俺の耳に、アホみたいに明るい声が飛び込んでくる。 「シカマルとそこで会ったてばよ〜久しぶりだなぁてさ」 自分が知っていた頃よりもだいぶ背も伸び、片手をポケットに入れているところ、 少し猫背なところ…顎に生やしたヒゲといい。 かつての教え子は随分と教師に似たものだ。 それもやたらに様になっているから、カカシは笑ってしまった。 「な!何がおかしいんスか!」 シカマルと呼ばれた青年は咥え煙草のまま、恥ずかしそうに頭をかいた。 「…いや、シカマルが男前になったな、と思ってさ」 「カカシ先生〜俺だってお・と・こ・ま・え!」 「ハイハイ」 3代目火影が残した火の意志は、しっかりと受け継がれている。 4代目の遺産へ …アスマの遺産へ。 想いは力に姿を変えるから。 あの頃、いつも隣で見ていた煙のような形をした雲を眺める。 なぁ、アスマ見てる? お前の生徒はこんなに立派になったよ。 お前の想いは伝わってるよ。 ちゃんと、シカマルは力に変えてるよ。 なぁ、アスマ。 褒めてやってよ。 あの頃みたいに、 焼肉、奢ってあげなよ きっと喜ぶよ 「カ・・・カカシ先生?大丈夫すか?」 何いってんの?シカマル。 俺、大丈夫に決まってるじゃない。 「カカシ先生ー泣くなってばよー!!」 ナルトまで何いって・・・ あれ?何で俺泣いてんの? 何も悲しくないよ? どっちかっていうとナルトやシカマルの成長が嬉しいんだけど。 あ。煙草の煙が目に染みただけよ。きっとそう。 「カカシ先生が泣くと俺も泣けてくるってばよー」 言いながらすでに鼻水と涙でナルトの顔をぐしゃぐしゃだった。 空は清々しいほどに青いのに。 何故か景色は歪んでしまっていた。 俺は確かに、泣いていた。 すーっと息を吸い込む音がした。 「アスマのばーか!カカシ先生泣かしてんじゃねーーよ!!!」 空が大好きだった少年は、目じりに雫をためて、大空に叫んだ。 ああ。なんて優しい子たちなんだろうね。 何も残っていないなんてことなかったよ。 ちょっと涙腺のゆるい歳になっちゃったけど、 もう少し、こっちで頑張るから。 あんたはそこで、見守ってて。 終。
<あとがき> ここまでおつきあい頂きあちがとうございます。 元ネタにした歌があるのですが、ほんとーにまさに木の葉ソングです。アスマソングです。 カカシ先生は面影ばっかり重ねちゃうんじゃないかな・・・と。 無駄に長くなってスミマセン。 戻る