ちょっと待てよ!

「オマエガスキダ」 自分の発言に自分の耳を疑った。 酒が入っているわけでもない、寝ぼけているわけでもない。 意識はハッキリしている。 そうか。これは夢なんだ。幻術だ。そうに違いない。 ムギュっと頬をつねる俺を相手は怪しいものを見るような目付きで見ている。 頬もその視線も…痛かった。やはり現実のようだ。 「で、アンタが俺を好きだって?」 眉間にシワを寄せてシカマルは呟いた。 冗談だと付け足せば何とかなるかもしれない。 「ああ。そうだ。」 ちょっと待てよ!何を言ってんだよ、俺! 完全に自分で足場を外したぜ?! 相手は男、しかも子供。 俺の好みはボンキュッボンであり、こんなぺったんこでガリガリじゃない。 決してない。 絶対にない。 「アンタの好みは紅さんみたいなタイプだと思ったよ」 あんなキツイ女は勘弁願いたいぜ。 それよりもコイツは何故かうつ向きながら頬を染めている。 ちょっと可愛いんですけど、シカマルさん。 つーかよ、男に告られて気持ち悪くないのか?こいつ。 普段のシカマルなら 「おっさん、ボケが始まるには少し早いんじゃねーか?」 とか殴りながら言い返してきそうなのだが…今は大人しくうつ向くばかり。 「シカマル?」 下から覗いて見れば、目に涙まで溜めていた。 「見んなって…」 こんなシオらしい可愛いシカマル見る機会少ないんだから、ちょっとくらいいいよなぁ。 下手に摺れたボンキュッボン女よりそそるものがある。 思わずゴクッと唾を飲んでしまう。 俺とシカマルの間を邪魔する将棋盤を動かし、距離を詰める。 「来んな…」 シカマルがキモいの一言を言ってくれりゃー終わるんだけどな。 こんな可愛い態度とられたらますます見たくなる。 べったり肩が触れ合うくらいに距離を縮めた。 まいったな。 ヤバいな。 ここシカマルの家だし、食ったらシカクさんに半殺しにされるかな。 それは何とか我慢するとして、可愛いシカマルがもっと見たくなり、 まだ自分でも疑いたくなる言葉を耳元で囁いてやった。 「すげーシカマルが好き」 シカマルは堪えきれなかったらしく、ついに泣き出した。 「泣くなよ」 ポンポン頭を撫でてやれば嗚咽まじりにうるせー、と聞こえてきた。 何だ?泣くほど気持ち悪いのかよ… 俺流ポジティブに考えれば嬉しすぎて泣いてるってなるんだが… この場合前者が濃厚だな。 あまりにワンワン泣くので俺もへこんできた。 弱い者苛めをしているようだし、泣いてるシカマルも見るに耐えない。 「あー…悪かったよ。だから泣くな」 子供をあやす父親の如く、シカマルの細い体を抱き寄せた。 大して力も入れていないのに簡単に俺の胸におさまる。 その抱き心地はやっぱりぺったんこ。 「アスマー…」 「ん?」 くすぐったそうにもぞもぞしながらシカマルは顔を上げた。 泣きっ面で上目遣いとかマジでヤバいからね、シカマル君。 他の奴に見せてないよなー? 「…ウレシイ」 聞き逃しそうなほど小さな声でつむがれた言葉に俺はまた自分の耳を疑う。 耳鼻科に行くべきか?などと考えていたらシカマルにヒゲを鷲掴みにされた。 「いてー」 「ばーか」 ★★★★★★★★★ 「…て、感じだよ、大体な」 じゅうじゅうと肉の焼ける煙に撒かれながらアスマは話終えて満足気な笑みを浮かべた。 それどころか思い出して想像しているのかキモい、と、いのは思った。 シカマルとアスマ先生のなれ初めを教えて!なんて気軽に聞くんじゃなかったと後悔していた。 「シカマル遅いねー」 口に物を入れながら喋るな、とは習わない秋道家のチョウジ君が呟いた。 「おーす」 一人別任務だった話題の人が遅れて現れた。 「お疲れさん」 いつもどおりアスマの隣に腰を下ろした。 が、どうも場の空気が浮かれてるというかピンクっぽい。 アスマは仕方ないとして明らかに他の二人も自分見てにやついている。 無視してアスマが手渡したウーロン茶に口をつけた。 (どうせろくなこと話してなかったな…ったく) そういう目でアスマを睨んでいたのだが、ものの見事にいのが誤解をしてくれた。 「幸せそうね、シカマル!そんなに見つめちゃって〜」 ぶっっ!! 思わずウーロン茶を吹き出してしまったが長年の経験によりチョウジの 肉にかかることは避けた。(後が怖すぎる) 「ななななな…何だって?」 シカマルは自分の耳を疑いたかった。あいにく耳はいい方でハッキリと聞き取れ てしまったが。 「もー…、もぐ…アスマ先生の…もぐ…ノロケがさ…凄くてさ…もぐもぐ」 秋道家では〜(以下略) 「のろけ…て、アンタ何を話したんだ?」 「別にいつもどおり…」  シカマルはアスマのヒゲを鷲掴みにした。 「な・に・を!話したんだって聞いてんだよ!」 「シカマルーそんな怒らないの。なかなか面白い話だったわよ」 「そうそう。シカマルも可愛いとこあるんだね」 「ちょっと待てよ!マジで何話してんだよ!」 シカマルの顔はあの時のように赤くなっていた。 怒りによるものだけども。 「ちょいとなれ初めを…」 「アホか!」 アスマの言葉に被せるようにキレた。 「嬉しいんでしょ〜?」 「モグモグ…(そうそう)」 「いのもチョウジもうるせーよ!忘れろ!」 二度と打ち上げには遅刻しない。 もしくは自分がいない時に打ち上げさせないことを心に決めたシカマル中忍でした。 終。