そんな懐かしさに浸っている間にも
雨は無情にも降り続く。






カカシは、木陰に腰を下ろした。深く抉られた腹部から、止まらない血が流れ続ける。
致命傷。するはずもない香りに囚われて、自分らしくもないドジをやらかした。
雨の冷たさは、体温も下げていく。それでもはっきりと冴える頭で最善策を考える。


チャクラも底を尽きている、救援などいつになるのかもわからない、




雨はやまない。





「・・・・帰らなきゃ・・・・なぁ・・・。」



口の中が切れているせいか、血の味が広がる。
この写輪眼を、里外に晒すわけにはいかない。任務を遂行できないのならば、
里に帰り処分してもらう。







選択肢はそれしかなかった。








待ち人のいない里へ
















帰らなければ。


























「・・・・俺が、そっちにいったら・・・泣くんじゃないよ?」









重たい体を起こし、少しづつ歩き始めた。
体は痺れはじめ、痛みは感じなかった。













「もうすぐ・・・だから。」














視界が滲みだす。雨よりもずっと温かい雫がカカシの方を伝う。















「・・・・アスマの泣き虫、うつったかなぁ・・・」











随分長い間、泣いていなかった自分に気がつく。
いつも慰める役にまわっていたから、自分が泣いてはいけないと思った。
タバコの香りのしない、あの日でさえも。















風が一層強くなり、カカシはその場に膝をついた。
ほんの一瞬、雨の匂いに混ざらないタバコの匂い。
もちろん実際にはありえない。懐かしい記憶を紐解いているうちに
匂いまで戻ってきてしまったらしい。
それが一気にカカシの張詰めた気を緩めさせた。











「・・・・アスマぁ・・・。」













掠れる声で名を呼んでも、返事はない。
風に運ばれてくるタバコのにおいだけじゃ、もの足りない。
思い出だけじゃ、我慢できない。
記憶を辿っても、浮んでくるのはアスマの泣いている姿ばかり。
全ては、雨のせいだ。


全ては、雨のせい。
雨の匂いが全てを消していく。









(アスマも雨に消されたんだ。)











恨むように、空を睨んだ。











このまま・・・・












自分も雨に消されようか?













アスマのいる場所にいけるのなら
雨も悪くないと、途切れる意識の中で初めてそう思った。









最後に見た空は、雨は降り続きながらも、晴れ間が広がっていた。
嬉し涙を流すアスマのように。












泣いてもいいよ、僕も泣くから。














終。