ぽろぽろ。

何も聞かずに、ただ微笑んで貴方は隣りにいてくれて。 何も言わずに、ただ微笑んで貴方は手を握ってくれた。 あまりに優しくて、暖かいから、ポロポロと弱い言葉が零れてきそうになる。 「…イルカ先生ー…」 俺… 「…別れてきたんです」 名前を言わなくても貴方にはわかってしまうでしょう。 いつも俺を見ていてくれた貴方なら、わかってしまうでしょう。 ただ「そうですか」とだけ言って、さっきより少し強く手を握りなおしてくれた。 あいつみたいなバカみたいに大きな手じゃなくて、ちょうど重なりあう大きさで、暖かい。 指に所々ペンだこができて固くなっている。 「偉かったですね、カカシさん」 「……っ…」 それは生徒に向けられるような頑張ったな、の意を含む言葉。 決して馬鹿にされている気分にならないのはイルカ先生だからだろう。 そんなに優しくしてくれるものだから。 俺の涙腺は、あっさりと緩む。 「…好きだった、んです……」 ポロポロと弱い言葉と涙は零れて。 「…アスマが…好きでした」 怒ったような…もしくはまるで感情もないような、アスマの「別れる」の一言に。 「…そう」しか言えなかった。 縋るなんて子供じゃないんだからできなかった。 いつか目の前から失くなるのなら、早く手放してしまおう。 そう言い聞かせた。 何故、とかごめんとか、好きとか触れたいとか、全ての感情を捩じ伏せた。 心に蓋をして捩じ伏せてみせた。 いつだってそうしてきたんだから。簡単なこと。 うまくできたと思ったのに、蓋はガタガタ揺れて溢れそうな感情に開きそうになった。 気がつけばイルカ先生の部屋の前に来ていた。 自分でも笑ってしまうくらい酷いと思う。 いつもイルカ先生が見てる視線が、自分を想ってくれている熱いものだって知ってるくせに。 こんなときだけ頼ってしまうんだから。 「最低…」 抱き締めてくれたらいいのに、なんて都合のいいことまで考えて最低だ。 「…カカシさん」 「……?」 「今日は、気がすむまでココにいて下さいね」 「…でも…」 傷跡の残る鼻をポリポリかきながらイルカ先生は笑った。 人懐こい笑顔に癒される。 「あの方の代わりには、程遠いですが…話聞くくらいならいくらでも」 「………」 「あ!なんなら一楽のラーメンもお供しますよ!」 まだやってるかな?なんて営業時間を気にするイルカ先生の顔は真剣そのもの。 「…プッ…」 あまりの必死さに笑ってしまった。 ナルトじゃあるまいし…里の技師と名高い自分にもこういう態度が 皆に愛されるんだろうな。この人は。 誰に対しても、分け隔てないところが。 「イルカ先生の奢りなら」 「あ、はい!もちろん!」 大真面目な返事にまた、笑ってしまった。 …ありがとう。 いてくれてよかった。 終。
<あとがき> 初イルカカです。木の葉一の癒し忍ですよ。うみのさん。 とある歌を元にしたんですけど、もーもろにイルカさんなんですよ。 本当にそばにいてほしい、一家に一台うみのイルカww