有難トウ×然様ナラ6

少し考えるような顔をしてから、アスマはグラスをテーブルに置いた。 嫌な予感は消えない。 「アス…」 「カカシ!」 せっぱ詰まった声と同時に、俺はアスマの腕へ引き寄せられた。 相も変わらず強い力に、半分以上中身を残したグラスは床に落下してしまった。 「ちょっと…!」 まるでお姫様だっこのように、俺はアスマの腕におさまった。 「相手が違うでしょーが!」 チラッとナルト達の方を見たが姿はなかった。勿論彼女の姿も。 今日からアスマは紅のもの。わかっていても悲しいセリフ。 ジタバタしても恐らく本気の力を込めているアスマに敵うわけもなかった。 「離せって!」 嘘。 離してほしくない。はなさないで。 「アスマ!」 「目…」 さらにグッと抱かれた腕に力が入ったのがわかった。 「綺麗過ぎて見てらんねー」 震えた声は俺の口によってすぐに閉ざされた。 「…っん…」 昨日は何でもないように抱かれたのに、今は不思議なくらい優しいキスに酔いそうになる。 「カカシ…」 目をあけたアスマの目は潤んでいた。 考えていることが同じのせいか、俺までそれが伝染った。 「泣いてんじゃねー」 「アスマこそ」 クスクス笑いあった後、来るべき静寂が訪れた。 密着した体からはうるさい程にお互いの鼓動を伝えた。 「おめでとう…アスマ」 どうして自分でもこのタイミングで口にしたのかわからなかった。 只、沈黙に耐えられなかった。 「…ありがとな…」 アスマはズズっと鼻をすすった。 永遠の別れでもあるまいし大の大人二人が情けないが、勝手に流れる涙を止めようもなかった。 「ありがとな…今まで…」 幕は今、下ろされた。 二度と上がることがないことを、アスマの涙が物語っていた。 「オメデト…」 オウムのように俺は繰り返し繰り返し、その言葉を呟いた。 俺達はお互いに嘘つきだ。 心にもない祝いの言葉を繰り返す俺も、一度も好きだと口にしなかったアスマも。 信じあい、想いあった日々だけは本物で。 今でも気持ちは一緒だって信じてる。 こんなに想いあいながらも、別れを選択した俺達は・・・自分の気持ちに嘘をついて これからを暮らしていく。 俺はゴシゴシと、涙をぬぐい、アスマの腕から降りた。 せっかくアスマが褒めてくれた両の目を、涙で濡らしていないまま 見せたかった。 「・・・・幸せにしてあげなよ、紅」 「努力はするさ」 「あんたほど努力って言葉が似合わない人もいないけどね」 「うるせー」 コツン、と拳で額を小突かれた。 この調子ならこれからも”親友”でやっていけるだろう。 「カカシ」 アスマはまっすぐ、俺の目をみつめた。 「んー?」 俺がそれに耐え切れなくなり、背中を向けた。 後ろから聞こえた声は、いつもの胸が跳ねるような低音だった。 「然様ナラ。」 有難トウ・・・然様ナラ。 さようなら。 終。 戻る