栗、拾いました

あれはまだ十班の担当がアスマだった頃の話。 中忍の任務に追われて、ばて気味だった俺は久しぶりにチョウジ達と一緒に 行動できることを楽しみにしていた。 それに…恥ずかしくって絶対本人には言えないけど、 アスマと一緒の任務ってのも当然久しぶりで浮き足たっていた。 勇み足で集合場所へ行くと二人とも既に集まっていた。 「おっそいわね〜シカマル」 相変わらず文句をつけるいの。それすらも懐かしい。 「うるせーな。まだ時間前だろ」 「久しぶりだねーシカマル。痩せたんじゃない?」 相変わらずポテチを片手に喋るチョウジ。 さらにデ…いや、ポッチャリしたような。 「そうか?結構食ってるんだけどな」 アスマの飯が美味いから、など余計な言葉が口から出そうなのを押さえた。 珍しく浮かれてるのが自分でもわかる。 そんな感じで世間話をしていたら少し遅れてアスマが現れた。 「おーっス!集まってるな」 こいつは毎日会ってるから久しぶりも懐かしいもないんだけど、 やっぱ任務で会えるのはちょっと違うな… いつもと違うアスマ… 何か背中に背負ってるし。 「「「ナニソレ!?」」」 俺ら猪鹿蝶の声は見事にハモッた。 「見てわからねーか?カゴだよ、カゴ」 「ちげーよ!今から芝刈りにでも行く気かよ!」 「惜しい」 え…悪態のつもりで言ったんだけどよー・・・惜しいの? もしかして今さらアカデミー卒業したてに与えられるようなDランク任務か? 俺の考えを知ってか知らずかアスマはにやりと笑って続けた。 「ある意味Aランク以上にキツイかもな」 「え〜〜〜!」 いのが悲鳴を上げた。Aランク任務が嫌、というよりも 「どんなうさんくさいことやらせる気だ、このおっさん」的な悲鳴。目が物語っている。 「まー行けばわかるから、黙ってついてこい」 アスマの言葉に何か感ずるものがあったのか、チョウジだけはニコニコと笑顔を 浮かべていた…。 歩き始めて30分程たった。すっかり赤や黄色に色づいた山の中に入っていた。 少し拓けた場所にアスマはカゴを下ろした。 「今日の任務は栗拾いだ」 「「…は?」」 「…だよね♪秋といえば栗拾い♪」 ぽかーんとする俺といのを無視して、アスマはチョウジの言葉に目を丸くしていた。 「なんだ、チョウジ。わかってたのか。察しがいいな」 「へへっ…秋にそんな大きなカゴに…危険といえばね」 さすが食べ物が絡むとやるな。 「危険も何も…栗だろ?」 「シカマル。そこの木、蹴飛ばしてみろ」 言われたようにガンっと蹴りを入れてみた ら… ドサドサ…ドサドサドサ! 「いでぇ!!」 大量の栗のイガによる攻撃に俺は叫んだ。木についていた実の全部が落ちてきたんじゃないかと いうくらいの量だ。 「この辺は栗の木だらけなんだよ。 秋の木の葉祭に使う栗を集めてこいってゆうれっきとした任務だ。」 よく聞けば遠くからあちこちで俺みたいな「痛ぇ!」の叫び声が聞こえてくる。 「ま、降ってくる栗を避けるってのも修行になって、一栗二鳥だろ」 一石二鳥だろ、オッサン。おもしろくねー…。 渋々さっき落としたイガを拾うことにした。 「あ、イガは外してくれよ」 めんどくせー!全部取ってたらチョウジに食われちまうよ! 何て口にはせず、黙ってイガを剥がすことにした。 隣を見るといのがクナイを使って上手いこと剥がしていた。 「上手いな」 「へへっ。お花を活ける剣山とかトゲとかでチクチクには慣れてるしね」 …そんなもんか。 何か俺もチクチクには成れてる気もするが。何だっけな? 「おい、シカマル。剥くのは、いのに任せてお前はこっちにこい」 「へいへい」 アスマの目利きによると、木の高いところに食べ頃な栗様がいるらしい。 「お前、肩車」 「やだ。アンタが木に登れよ」 「こんな細い木、お前が乗っても折れるぞ」 「……」 わざわざ届かない場所にあるあれでなくてもいいんじゃ… と口にする前にアスマに担がれていた。 「乗るから…乗るから!」 何でも力づくなんだよなーったく。体制をたてなおし、しゃがんだアスマの肩に足をかけた。 「いいか?」 「おー」 アスマの髪を掴んで思い出した。 これだ。この髪やら髭が肌にあたるチクチク具合。 「アンタ、栗のイガみたいだな。チクチク」 「あぁん?振り落とすぞ、バカ」 アスマに似た一つだけバカに大きくてチクチクした栗に手を伸ばした。 「取れた」 「あいよ」 俺を降ろす為にゆっくりとアスマはしゃがんだ。 そんな俺達を見て、なぜかチョウジがムスっとしていた。 「どうした?チョウジ」 「皆だめだな〜と思って。栗拾いは拾うから栗拾いって言うんだよ。それじゃ、栗狩りだよ」 栗狩り・・・。 コホン、と一つ咳払いをしてチョウジは語りだした。 「栗はね、熟したら自然と木から落ちるの。食べごろの奴がね・・・ふふふ」 そういって笑うチョウジの手にはイガを剥かれた栗が山盛りだった。 「大きいやつが、食べ応えあるってのはあってるけどね、先生」 そう言い終えると、むしゃむしゃと食べながら、また落ちている栗を探しながら歩き出した。 「・・・チョウジかっこいいなー」 俺も同じこと思っていた。 勝手に任務先の栗を食べていることを気にもせず・・・。 次へ