アスマ班揃っての久しぶりの任務は、Bランクと設定されながらもかなり苦戦を強いられた。
その証拠に、いのもチョウジも帰り道に一言も口を開くことはなかった。






「んじゃごくろーさん。ゆっくり休めよ」




「はい…」




「…お腹減った」




力なく返事をしアスマに背を向ると、二人はトボトボと家路をたどりだした。










I let you hurt

「よし、俺らも帰るか」 アスマの背中には、これまたボロボロのシカマル。 「生きてるか?」 「…ああ」 悪態をつく気力もなく、素直にアスマの背に身を預けていた。 「・・・あのよー」 「なんだ?」 いの達の前では決して吐くことの許されなかった弱い言葉を、 ゆっくりとシカマルは口を開いた。 「アレ…Bランクじゃないよな…」 途中から上忍クラスが次々と現れた。応戦してはみたが 相手の最大人数も把握しきれず、技の多様さからしても力の差は歴然だった。 生きて返って、再び任務につくのも一つの選択肢だ。 小隊長のシカマルは最後まで悩んだ。 退くべきか…または… 「お前の影技がなかったら、ちとヤバかったな」 ハハっと笑うアスマさえも大怪我を負っている。 俺たちを庇いながらの戦い… それは「進む」と判断した自分の責任だ。 あの時退いていたら皆にこんなに怪我をさせずにすんだかもしれない。 全員がこんなにケガをしなければ、アスマも庇う必要はなかったのだ。 最悪、命を落としていたかもしれない。 考えれば考えるほどに、自分の判断はよかったのかどうか不安になっていく。 ぐるぐると頭の中を駆け巡る。 「誰も死んでねーし、任務も完了した。」 おぶさる背中から思考が伝わってしまったのだろうか。 シカマルの後悔を見透かすようにアスマが呟いた。 少しも咎めることもなく、温かい言葉。 「ケガの一つや二つ、気にすんなって。あの時はあれが最善だっただろ? やるだけやったんだから、後悔すんなって。 あってるとか間違ってるなんてーのは、後からついてくるもんだろ」」 アスマの言葉には力があった。 どんな失敗をした時にも、次へと進めるように前向きにさせるのだ。 それはアスマ自身の経験と自信からきているものだった。 少し心が軽くなったシカマルは、アスマの髪に顔を埋めた。 「…あんたの額あてがなかったら死んでたかも」 額を切って血が目に入るのを防ぐために、アスマは自分の額あてをシカマルに巻いてやっていた。 そのおかげで視界に血が邪魔することもなく任務を遂行できたのだ。 嗅ぎ慣れた匂いのおかげで精神までも平静を取り戻せた。 心からアスマに感謝した。 「…やっぱ上忍なんだな」 答えはなかったが、きっと笑っているだろう。 いつも見上げる空のように広い背中は安心感がある。 「シカマル」 「ん?」 「煙草」 「…吸うの?」 「眺めるわけねぇだろが」 「…」 少し後ろを向いたアスマはいつもと違う顔。降りた前髪のせいか…濃い血の匂いのせいか。 仕方なくシカマルはポーチから煙草を取り出してやる。 「火」 「はいはい」 ゆっくりと煙が夜空へと消えてゆく。 次へ