鬼ごっこ

めんどくさいことになった。 非常にめんどくさいのに、この男は鼻高々、嬉しそうな顔。 「ま〜俺が素敵すぎてよ、アカデミーの1日講師に呼ばれたわけだ。」 誰もいない上忍待機所に呼び出されたシカマルはただでさえ居心地の悪い部屋に 顔をしかめずにはいられなかった。 「俺、かんけーねーじゃん」 「手伝え」 反対は許さない、とギロリと素敵な上忍は目を光らせた。 初対面ならまだしもそれくらいで簡単に引き下がるシカマルではなかった。 「嫌だね、アンタの尻拭いなんかごめんだぜ」 「ばっかやろう。貴重な俺の講義を聞かせてやるってんだ。有り難く思え」 「抗議の間違いだろ?」 うんざりだった。どうせ人前でも何かしらやる男だ。 不必要なスキンシップ…要は公開セクハラを。 「お前、結構有名人なんだぞ?一人だけ中忍になったって」 「アンタがセクハラしなきゃいいんだよ」 「何を今さら。周知の仲じゃねーか」 やはりベタつく気だったのだ。 確かにアスマとの関係は周りに知れている。 それはごく親しいナルトやキバ、(シカマル的には大不満だが)カカシなどだけだ。 アカデミー生が知るよしもない。 知らない奴にわざわざ教える必要もない。 というより、普通に恥ずかしい。男同士の関係のバクロなんて。 「あんたは羞恥が足りねーよ」 「馬鹿いえ。すげぇ恥ずかしがりで一人で、アカデミー生の前に立てねーから頼んでんじゃねーか」 ああいえばこういう。とても頼み事をする口調ではない上にとんでもなく情けないことを 口にしている。 それを誤魔化すかのようにのっしりと大きな体を今にも乗せてきそうなアスマ。 シカマルは思いきり腹に拳を食らわせた。 少し考えれば弱みを握るチャンスでもあることに気がついた。寒いことを言って 冷たい視線を浴びるか、罵声を浴びる姿を見るのも悪くない。 「…条件つきなら」 「条件?」 痛がる様子もなくアスマは聞き返した。 「絶っっ対、俺に触るな。尻なんてもっての他だからな?」 今度はシカマルがギラリと鋭く目を光らせた。 「…わーったよ…」 拗ねた子供のように渋々と返事をした。 シカマルは意外な光景に目を丸くしていた。 アスマが教室に入ると同時にわぁわぁと歓声が上がったのだ。 こんなセクハラ教師でもどうやら人気は、あるらしい。さらにアスマが上手いこと 「唯一中忍になった」 「10手先を何百通り読んでいる」 だの紹介するものだから羨望の眼差しがシカマルに集まる。 照れ臭く頭を下げ、そそくさと窓際に引いた。 室内は時に静まり返り、時に爆笑の渦に包まれたり、拍手まで起きたりしていた。 客観的に見れば教えるのが上手いのだなぁ…とシカマルは合間合間に黒板を消しながら感心していた。 どの生徒も真剣に話を聞いている。 自分のアカデミー生活はこんな風に真面目になることもなく…かなり寝ていたな。 今思えば教師に対して失礼だったな、とかアスマに教わってたら違っていたかな…とか。 ぼんやりと過去に想いを馳せていると、アスマがチラチラと落ち着きなく、シカマルに目配せしている。 トントンと教壇を指で叩いている。イライラしつつある証拠だ。 (…あー、煙草とライター預かっといて正解だったな) 何だかんだでアスマのことばかり考えていて、視線の意味に感づく自分も末期だ と思いながら、ぷいっと視線を外した。 しばらくしてからアスマの方へむきなおせば、その目は 「後で覚えてろよ」。 次へ