鬼ごっこ2

講義後の生徒からの質問攻めも終わり、室内にはシカマルとアスマ二人だけだった。 すっかり外は暗くなっていた。 「ふわ〜…疲れた」 最後の黒板消しを行いながら、シカマルはあくびをした。 不幸にも緊張感から解放された緩みからか、危機感ゼロ状態だった。 真後ろに立つアスマを気にもせず、黒板を消し続けた。 「あ」 と口にした時には既にアスマの腕の中で体が横になっていた。 そう、お姫様だっこというやつだ。 「俺の煙草を隠すような悪い生徒には補習があるんだぜ?」 ゾクゾクするほど低い声で囁かれ、 シカマルはサぁーっと全身の血の気が引いていくのがわかった。 「ちょっと…降ろして?」 こうゆう時のアスマは無駄に強く力が入っていて、到底シカマルには解くことができない。 かといって此処は神聖な教室だ。無駄だろうと抵抗しないわけにいかない。 「そんな可愛い顔してるから、アイツらにも狙われるんだよ」 「アイツら…?」 「美味しそうな顔で見られてたぜ ?」 だんだん不機嫌声になるアスマに、シカマルは必死で言葉を探した。 連れてきたのは自分のくせに誰かれ構わずヤキモチを妬くのだから手に負えない。 本当にガキだ。 「気のせいだって…」 ボソボソとそれくらいしか言葉にできなかった。 「…たっぷり補習してやる!」 ゾクゾクと寒気を覚える程にイヤらしい笑顔でアスマは歩き出した。 場所が場所だけに喚くわけにもいかず、大人しく連れ出された場所はアカデミー 校舎内の医務室。入っただけで独特の薬品の匂いが鼻についた。 シカマルを抱いたまま、パチンと電気をつけた。 「アスマ…」 心配そうにアスマの顔を見上げた。只でさえ人より厳つい顔がより恐さを増している。 煙草を吸えないストレスと、アカデミー生へのヤキモチでアスマの苛立ちは噴火しそうだった。 「まだ怒ってんのかよ…」 わかりきったことを聞きたくもなかったが、謝るのも納得がいかないので口にした。 それに。 この男の機嫌の悪さが何よりもタチが悪くめんどくさいことを知っていた。 そっとベッドに寝かされ、武骨な指がシカマルのベストにかかる。 それでもアスマは黙ったままだ。シカマルまで苛立ってきた。 (あーったく!ガキかよ、こいつは…) アスマに拍手を送ったあの生徒たちがこんな姿を見たら何と言うだろうか。 ガキみたいに拗ねて機嫌直しに教え子にキスされている姿を。 シカマルはアスマの首に腕を回し、仏頂面を引き寄せた。 シカマルだけが知る早期解決法。 「……シカマル??」 ハチパチと瞬きを繰り返している。 稀にしか発動されないこの解決法、威力は抜群で一瞬にしてふにゃけた笑顔にしてしまう。 「…バカなヤキモチ妬いてんじゃねーよ」 ただし、言った方も相当の恥ずかしさを消費する。 この真っ赤になった顔を見ても不機嫌だったことは一度もない。 完全にヘラヘラしだしたアスマを確認すると、サッと絡めた腕を引っ込めた。 「なんだよー。ケチ〜」 「バカ!声がでかいって!」 忘れてもらっては困る。此処はアカデミーの校舎内。誰が入ってくるかわからない。 「んじゃシカマルの口で塞いどいてくれよ♪」 機嫌をよくしたアスマの饒舌は止まらない。 「アンタな〜…」 アゴに一発お見舞いしようとしたが既に遅く。 貪るようなキスに阻止されてしまった。 「っう…」 そもそもの役目が病人を休ませる用のベッド。 二人で乗れば当然ギシギシと音を奏でる。 【此処はムリ!】 そう訴えたいと頭は願っても、肝心の唇が言うことをきかない。 「んっ―ん!」 アスマの舌に支配された口内からはくぐもった息を吐き出すのがやっとだ。 ジタバタと手足を動かす。 「アンマリ暴れると落ちるぞ」 長い支配から解放された。ククッと喉を鳴らして笑うアスマに些かカチンとしながら、大人しくする。 余計な物音をたてるのは危険だ。 鮮やかな手つきでベストを脱がし、アンダーシャツは胸まで捲られている。 「くすぐってぇ…」 肌にヒゲがあたる。ワハハと笑いそうになるのを必死で堪える。 「色気のないこと言ってられるのも今のうちだ」 ギラっとアスマの目が怪しく光る。 「っ…やめ…っ」 雪のように白い肌にアスマの舌が滑る。 胸の蕾をついばまれ、言葉とは裏腹に卑猥な声が上がる。 「…ぃ…っ」 「腰、あげろよ」 「???」 ワケのわからない様子で浮かした腰の下にアスマが腕を入れた。 何やらゴソゴソと… 「おー、あったあった♪」 久しぶりに旧友と再会したかのように、アスマは嬉しそうに笑った。 シカマルのポケットから取り出したのは勿論、煙草とライター。 即座に一本取り出し、口にくわえた。 「あ…アンタなぁ!ここで吸う気かよ?」 そうシカマルが言ううちに既に火はつけられていた。 人がいない時間とはいえ、本来治療目的で使われる部屋だ。 いかがわしいことを始めるは煙草は吸うは…どんだけ不良上忍だ。 「ぁん?案外固いな〜おまえさん。授業は寝てたくせによ」 知ってたのか。そんな恥ずかしがさを誤魔化すようにシカマルは声を荒げた。 「い…いつまでこんな格好させとくつもりだよっ!!」 アスマはあちこちに赤い痕を残す白い肌を眺めまわし、最後にシカマルと目を合わせた。 「な…なんだよ…」 「いや、お前も結構乗り気なんだな〜と思ってよ…いでっ!」 ビンタを喰う。 「バカ言ってねーで、早く…」 「早く?」 アスマ、にやにや。 シカマル、真っ赤っか。 「…早く終わらせろ…」 消え入りそうな言葉に笑うのを堪え、携帯灰皿に煙草を押し込んだ。 次へ