平静を装うのは得意な方だけれど、今回ばかりは自信がなかった。
朝から何度も何度も鏡前で笑顔の練習を繰り返すが、ぎこちなく見える。




「ハァ…」




何度見ても鏡の中の俺の表情は硬い。アイツが綺麗だなーなんてお世辞のような
言葉をかけてくれた色違いの瞳も曇っている。
うまく笑えるかな
うまく笑えるよね。
いつだってやり過ごしてきたんだからね。
今回だってうまく…笑わなきゃ。





「おめでとう、アスマ」





口にしてみても言葉さえも硬い。棒読み。
心こもってねーな、て文句言われるだろうな。それもなんかイヤだしね。
やり直し!








「おめでとう…」 









鏡に映る冴えない自分の顔を見ながら、昨日の出来事をゆっくり思い出す。











有難トウ×然様ナラ

「マジ〜?アスマ先生ってばいつの間に…」 「だろ?嵐がくるぜ。毎日顔合わせてる俺たちだって知らないかったんだからよ」 待機所に向かう通路で聞きなれた大きな声に足を止めた。 お馬鹿なナルトがテンション高めなのはいつものことだけど、珍しくあのシカマルまで 同じノリで噂話に興じているようだ。一体何があったのだろう。 壁に隠れて話を聞くことにした。 「カカシ先生悲しむってばよ…」 え、何?俺に関係ある話? 「あんな熊でも貰い手があったんだな」 貰い手…て… 「しかも相手があの人だろ?」 「まさかアスマが結婚できるとはなー」 シカマルの最後の言葉を聞いた瞬間から殺気をメラメラ(?)放ってその場を後にした。 頭真っ白。 なんで隠してたのか。 なんでなんで? 俺に一番に話すべきでしょ。 そりゃ好きだなんて一言も言われたことないけど・・・毎日隣にたし。 それがあたりまえで幸せだったのに。 恋人気分だったのは結局俺だけだったのか? 俺が男だから? 胸がムカムカ熱くなって、任務帰りのアスマを待ち伏せして捕まえた。 「何で黙ってたのよ」 睨みをきかせて問い詰めてやれば 「夜中お前んち行くつもりだったんだよ」 何でもないことみたいにサラっと言ってのけた。 いつでも余裕たっぷりで頼りになると思うけど、むかつくところでもある。 俺の心だけでなく髪までクシャっと掻き乱し、 「またあとでな」 素早い熊はさっさとその場から消えてしまった。 あまりにいつもと変わらぬ態度に暫くその場から動くことができなかった。 「・・・なんなのよ・・・。」 日付が変わる頃にアスマは窓から部屋に入ってきた。 お詫びのつもりなのか自分が呑みたいだけなのか… (たぶん後者だな) 焼酎を片手に。 「邪魔するぜ」 「ほんと邪魔だよ、でかい体がね」 「そうゆうなって。ほら、土産」 アスマが差し出したソレは、なかなか手に入らない名酒だった。 実は俺も呑んでみたかったモノだから気が緩んでしまい、口元がにやけてしまった。 「…アスマも呑む?」 気前よくこんなことまで言ってしまった。 「まってました〜♪」 すかさず飛びついてきた。やはり自分の為か、コイツ! 「呑ましてあげるからグラス取ってきてよ」 「おう」 ドタドタと熊は台所へと駆け出した。 「ま、任務おつかれさん」 適当に呟いてグラスをカチンと合わせた。 「お疲れさん」 満面の笑みでアスマはグラスを掲げ、一気に喉に流し込んだ。 「っあ〜!うめぇ〜!」 オッサンくさいな、ホントに。 呆れながら俺もチビチビと口をつけた。噂に偽りなく、かなりの旨さだ。 しばらく他愛のない会話をした後、確信に触れることにした。 酔いつつはあるが、まだ意識はしっかりしている。 恐らくアスマも同じくらいのほろ酔い加減だろう。 「で…どうゆうことよ?」 冷たくなりすぎないように気をつけた。 「…まー、ご存知のとおりだ」 ゴホンと一つ咳払いをして、アスマは続けた。 「お家柄のせい、だな」 まるで他人事のようにサラっと話すから、俺も全く関係のない第三者の話を聞いている気分になった。 「猿飛家だもんね、一応」 「一応いうな。まー、出来損ないだから式なんかは、やらねーけどな、お、わりいな」 アスマの空のグラスになみなみと注いでやった。 政略結婚ね。名家にはよくある話だけど、アスマにはピンとこない。 そうゆうのってもっとさ、お堅い段取りにそってじっくり時間をかけて、あれこれ話進めるんじゃないの? 「それがなんで紅なのよ」 最大に気に入らない点はそこだった。 上忍、同僚、くのいち。 身近な人間過ぎて…俺じゃダメな理由が見つからない、と本気で思う。 「…向こうさんの家の都合だそうだ」 ため息交じりに話すアスマは心底面倒そうに見えた。 さらに遠い目をして話は続いた。 「こっちにもあっちにも最善なケッコンらしいぜ…ったく」 猿飛家に生まれながら好き勝手やってきたアスマもそろそろ年貢の納め時と いうヤツらしい。子孫繁栄とか諸事情があるんだろう。 ゛相手゛の年齢も適齢期なこともあり急な話になったようだ。 「…紅はノリノリなんじゃないの?」 彼女がアスマに惚れてるのは誰の目にも確かだからね。 「そーかー?そうみえねーけどな。ヒステリーだしよー」 「どうせアスマがロクでもないこと言って怒らせてるんでしょ?」 首を捻って悩みだすアスマ。心あたりがあるのか。 うんうん唸った挙げ句に急に真面目な顔になった。 「よくわからんな、女心は」 何を言ったんだろう?ものすごく気になる… アスマの口から聞かないとわからないよ。 断りきれなかったのか、とか 一番に好きなのは…誰?とか・・・・ そんなことを悶々と考え出していたら じっとアスマに見つめられていた。 「カカシ」 「ん?」 その言葉の続きを聞くのが怖かった。 終わりの幕を下ろされるかもしれない。 別れの挨拶かもしれない。 「目…綺麗だなあ」 酷く落ち着いた声で呟かれた言葉に心臓が跳び跳ねた。 >>2