有難トウ×然様ナラ3

「オメデトウ」 何度目かの反復練習を終え、ふと気がついた。 口布していけば表情隠せるじゃない? それに… 「あのバカ…」 角度を変えて鏡を覗けば右にも左にも くっきり鮮やかな痣たち。 普通結婚する前日にこんなことするかね? 許しちゃう俺も俺だけど。 とにかくこんなものつけて歩きまわるわけにいかない。 口布、決定。 開始時間より少し遅れて会場の呑み屋へと入った。 既にアルコール臭が充満していた。子供らは子供らで固まっているし、 主役のアスマはゲンマ達と盛り上がっていた。 途中から割り込むのも気がひけて、どこか静かに座れる場所を探した。 (あそこ…あそこか…) 確かに一人分の席が空いている。 しかし、そこしか開いてないってどうゆうことよ。 よりによって一人佇む紅の横。 ジロリとアスマを睨んでいるようだ。 (気まずい…) そろそろと近づいていき、ストンと腰をかけた。 全く、アスマの奴、奥さんをほったらかしてんじゃないよ。 「お酌しましょーか?お姉さん」 チラッとこっちを向いた。 「……いいわ」 紅は静かにそう答え、また視線をアスマに戻した。 好きな男と結ばれた日に不幸そうな女と、無理して騒いでいる(ように俺には見える)馬鹿な男。 可哀相なケッコンだな。 「カカシは良いわよね」 「ん?」 「結婚、なんてしなくても一番になれたんだから」 一瞬なんのことかと思ったが、すぐに理解した。 紅がヒステリーを起こした原因だろう。 「…アスマに何て言われたの?」 「好きになる努力はする、けど二番以上はない、そうよ」 「…!!」 またアスマは直球を投げたものだ。 そんなこと、思ってても言うものじゃないでしょ。それがやさしさというか・・・ アスマらしいといえばアスマらしいけど。 それに、付き合ってるかも曖昧な俺が、仮に恋愛感情はなくても綺麗な紅に勝てるなんてありえない。 2番は俺だよ・・・。じゃあ、1番は? 「アスマはあんたが大事なのよ」 つまらなさそうに彼女は続けた。 「あの男はホントに前しか見てないわよね。」 顔には出てはいないが、心の奥底で泣いているような声だった。 前しか見ていない…か。確かにその言葉どおりかもしれなお。 隣にいても時々不安を覚えた。 こっちを見てくれていないんじゃないかって。 自分の信じたものを曲げないアスマだから。 隣どころか背中を向けられた紅はどんなに寂しい思いをしているのだろう。 「ついてないわよね…何であんな奴が相手なんだろ!」 かける言葉も見つからなかった。 普段の強気な表情からは想像つかないほど、 綺麗な彼女の顔は苦痛に歪んでいた。 「何で…あんなバカに惚れたかなー?」 ついには泣き出してしまった。 その髪を撫でることさえ躊躇われた。 それほどに彼女の気持ちは純粋だった。 俺がアスマと関係を持たなければ彼女は傷つかなかった。 俺が彼女に慰めの言葉をかける権利なんて、ない。 「カカシ先生〜!そんな隅っこで何してんだってばよ!」 「ナルト…」 この雰囲気を察しなさいヨ… 体はでかくなっても場の空気を読めないやつだな… 「早くこっちこっち!ちゃんといつもお世話になってるアスマ先生に、お祝いいわなきゃダメだってばよ」 変な気ばかりまわしやがって…。 ま、このおかしなテンションのナルトのおかげで紅も笑ってるみたいだし、よしとしようか。 「言われなくても行くよ。それよりお前、顔真っ赤だけど?」 へへん、と笑いながらナルトは紅の膝の上に倒れた。 「ちょっとー、この子だいぶ呑んでるんじゃない?どーゆー教育してんのよ」 「俺のせい!?」 「監督不行き届っすよ?」 「シカマルまで…」 「んがー…」 ナルトは紅の膝枕ですでに夢の中。 「ちょっと!こんなとこで寝てんじゃないわよ!」 ガーガー叫ぶ紅を横目にシカマルがアイコンタクトを送ってきた。 どうやら…あのオッサンが呼んでいるらしい。 次へ